商標「MMPI」商標権に基づく差止等請求事件

【担当:弁理士 浅野令子】

平成29(ワ)38481
(↓判決文 IP Forceさんのページに飛びます)
https://ipforce.jp/Hanketsu/jiken/no/12749

1. 事実関係

(1) 原告商標権
本件商標:MMPI(標準文字)
登録番号:5665842
出願日 :H25.7.18
登録日 :H26.4.25
指定役務:第44類 心理検査

(2) 被告の行為
被告は,平成29年4月1日から,心理テスト質問用紙(被告質問用紙),回答用紙(被告回答用紙)及び自動診断システム(被告ソフト,各商品を併せて「被告各商品」)並びに「MMPI-1」等の性格検査の解説書であるハンドブックの出版・販売を開始した。

また,被告は,自治体や企業等が採用試験等に用いた被告回答用紙を解析し,自治体等に検査結果を伝える診断解釈サービス(被告サービス)を行っており,被告ウェブサイト上には被告各商品や被告サービス等の広告(被告広告)を掲載している。

(3) 被告が使用する標章(被告各標章)
被告標章1「MMPI-1  性格検査」(被告質問用紙にて使用)
被告標章2「MMPI-1  回答用紙」(被告解答用紙にて使用)
被告標章3「MMPI-1 性格検査」(被告ソフトにて使用)
被告標章4「MMPI-1自動診断システム」(被告サービスにて使用)
被告標章5「MMP I-1性格検査」(被告広告にて使用)

2.争点

(1) 本件商標と被告各標章の類否(争点1)
(2) 被告の行為のみなし侵害行為該当性(争点2)
(3) 本件商標権の効力が被告標章に及ぶか(争点3)
ア 法26条1項3号(普通名称又は役務の質表示)該当性(争点3-1)
イ 法26条1項4号(慣用商標)該当性(争点3-2)
ウ 法26条1項6号(非商標的使用)該当性(争点3-3)
(4) 本件商標登録が無効審判により無効にされるべきものか(争点4)
ア 法3条1項1号又は2号(普通名称又は慣用商標)該当性(争点4-1)
イ 法3条1項3号(役務の質表示)該当性(争点4-2)
ウ 法3条1項6号(識別力を欠く商標)該当性(争点4-3)
エ 法4条1項10号,16号(周知商標との混同又は品質誤認)該当性(争点4-4)

3. 裁判所の判断

裁判所は,争点1,2,及び3-1についてのみ判断しています。

(1) 争点1(本件商標と被告各標章の類否)について
裁判所は,「MMPI」が,「『Minnesota Multiphasic Personality Inventory』(ミネソタ多面的人格目録)の略称であり・・・本件商標 の指定役務である心理検査の需要者である精神医学や心理学等の関係者の間では,心理検査の一手法である本件心理検査又はその略称を示すものとして周知である」と認定するとともに,被告各標章の要部は「MMPI」であると認定し,本件商標「MMPI」と被告各標章は類似すると判断しました。

(2) 争点2(被告の行為のみなし侵害行為該当性)について
裁判所は,「心理検査を役務としてみた場合,その中核は,同検査の実施主体(心理検査の役務を提供する主体)による回答の判定(診断及び解釈)部分にあると解される」との前提に立ち,被告各商品における被告各標章の使用は,みなし侵害行為に該当すると判断しました。

(3) 争点3-1(法26条1項3号(普通名称又は役務の質表示)該当性)について
商標法26条1項3号において,指定役務と同一・類似の役務の普通名称又は質等を普通に用いられる方法で表示する商標については,商標権の効力は及ばない旨が規定されています。
裁判所は,「MMPI」が「心理検査の内容,すなわち『質』を表すもの ということができる」とし,また,被告各標章がありふれた書体で構成されていることを考慮して,「『MMPI』を含む被告各標章は,いずれも本件商標の指定役務である心理検査又はこれに類似する役務ないし商品の『質』を,普通に用いられる方法で表示するものということができるから,法26条1項3号に該当し,本件商標権の効力が及ばない。」と結論づけています。
なお,原告は,「MMPI」が役務の普通名称又は質を表示するものではなく,原告が長年にわたり独占的に提供してきた役務を表示するものとして識別力を獲得したものであると主張していました。

これに対し裁判所は,原告の使用態様として,「MMPIの実施法・まとめ」,「MMPI新日本版」などと記載されているものや,「MMPI」単独の表記であっても,「MMPI」がハサウェイ教授らによって発表された心理検査である旨の解説が付されているもの等があり,これらはいずれも原告の出所を表示する態様で行われてはおらず,原告が提供する役務を表すものとして識別力を獲得したということはできない,と判断し,原告の主張を退けています。

4. 実務上の指針

本件商標「MMPI」は,その出願の審査経過において,3条1項各号及び4条1項11号を理由とする拒絶理由通知を受けており,本件訴訟の原告は,意見書による反論を行って,拒絶理由を覆し商標登録を受けた経緯にあります。

また,本件訴訟の被告は,本件訴訟提起後の平成30年3月2日,特許庁に対し,商標法3条1項3号,同項1号又は2号,同項6号に該当することを無効理由として,原告を被請求人とする本件商標登録の無効審判請求をし,特許庁は,令和2年5月1日,本件商標登録を無効とする旨の審決をしました。
本審決は,「本件商標「MMPI」は,その登録査定時において,これをその指定役務について使用するときは,その役務が「MMPI」という本件心理検査であるという役務の質を表示,記述する標章であって,役務の提供に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,一般的に使用される標章であって,自他役務の識別力を欠くものであると判断するのが相当である。」として,本件商標は3条1項3号の無効理由を有すると結論付けました。
本審決に対し,本件訴訟の原告は,令和2年5月28日に審決取消訴訟を提起しています。

既に広く使われており,自己のオリジナルのネーミングでない名称を採択し,商標登録する場合,4条1項7号や19号に留意すべきであることはもちろんですが,その商標が商品の品質,役務の質を暗示するような内容である場合は,権利者に長年の使用実績があるとしても,その使用態様が商品の品質,役務の質を表すものに過ぎないとして,権利行使が制限されるリスク,商標登録が無効になるリスクがあると考えます。

このような名称を,防衛目的でなく,積極的な権利行使を目的として商標登録する場合は,権利化及び権利化後に争いになった場合にかかる費用・時間等も考慮することが重要と考えます。

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