21.大森林事件(H3(オ)1805)
【テーマ】
侵害場面における取引実情の考慮
【メモ】
1.ざっくり概要
原告 登録商標 「大森林」*「せっけん類, 歯みがき, 化粧品, 香料類」
– 通常使用権者の商品「薬用頭皮用育毛料」
被告 使用標章 「木林森」(縦書きのもあり)* 頭皮用育毛剤, シャンプー
原審は「非類似」で非侵害
最高裁の判断では「類似」で侵害
『商標の類否は、同一又は類似の商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものであって(最高裁昭和三九年(行ツ)第一一〇号同四三年二月二七日第三小法廷判決民集二二巻二号三九九頁参照)、綿密に観察する限りでは外観、観念、称呼において個別的には類似しない商標であっても、具体的な取引状況いかんによっては類似する場合があり、したがって、外観、観念、称呼についての総合的な類似性の有無も、具体的な取引状況によって異なってくる場合もあることに思いを致すべきである。』
『本件商標と被上告人標章とは、使用されている文字が「森」と「林」の二つにおいて一致しており、一致していない「大」と「木」の字は、筆運びによっては紛らわしくなるものであること、被上告人標章は意味を持たない造語にすぎないこと、そして、両者は、いずれも構成する文字からして増毛効果を連想させる樹木を想起させるものであることからすると、全体的に観察し対比してみて、両者は少なくとも外観、観念において紛らわしい関係にあることが明らかであり、取引の状況によっては、需要者が両者を見誤る可能性は否定できず、ひいては両者が類似する関係にあるものと認める余地もあるものといわなければならない。』
2.考慮され得る取引実情
・登録場面において考慮され得る取引実情
「指定商品等についての一般的、恒常的な取引実情」(保土谷化学工業社標事件)
・侵害場面において考慮され得る取引実情(大森林事件)
「その商品の取引実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況」
3.勉強会での議論
●この事件でなぜに取引実情が考慮されたのか?(by S先生)
判決では、『少なくとも外観、観念において紛らわしい』と判断されているので、わざわざ取引実情持ち出す必要があったのか?
→(登録段階での現在の基準だと、たぶん非類似になるような…)『取引の状況によっては、需要者が両者を見誤る可能性は否定できず』という腰の引けた表現…
→原審では、取引実情によって “非類似”と判断したので、そのロジックの切り崩しが必要だった?
その一環として、通常使用権者の使用商品「薬用頭皮用育毛料」と、被告の商品「頭皮用育毛剤」「シャンプー」とががっちり重なり合うかどうか微妙なので、需要者をより広く捉える調整が必要という判断だったのか…?
ちなみに、
・通常使用権者の使用商品「薬用頭皮用育毛料」は、現在では第3類「化粧品」と同じ類似群コードが付与されている。
・被告の商品「頭皮用育毛剤」は、現在では第5類「薬剤」と同じ類似群コードが付与され、「シャンプー」は、現在では第3類「せっけん類」と同じ類似群コードが付与されている。
S先生情報
『美容専門学校で使っている香粧品科学の教科書では、育毛・養毛剤の原料といった感じで、一緒にあつかわれています』
↓
第5類「育毛剤」「養毛剤」(「薬剤」と同じ類似群コード)
第3類「育毛料」「養毛料」(「化粧品」と同じ類似群コード)
わいのような一般需要者には違いがわからん (;^_^A
22.小僧寿し事件(H9(オ)1102)
【テーマ】
侵害場面における取引実情の考慮
【メモ】
1.ざっくり概要
原告X 登録商標 「小僧」*「他類に属しない食料品及び加味品」
被告Y 使用標章 「小僧寿し」「KOZO SUSHI」等(縦書きのもあり)*寿し
原告Xは昭和31年10月29日商標登録出願し翌年に商標登録を得て、昭和 49 年 11 月ごろから大阪市を中心とする近畿地区において「おにぎり小僧」の名称で持ち帰り用のおにぎり,すし等の製造販売を始めた。
ただし,Yないしその傘下の加盟店の店舗の所在する四国地域では本件商標を使用しておにぎり,すし等を販売したことがない。
被告Yは昭和47年5月1日に設立され、昭和五三年以降、四国地域においては、一般需要者の間で「小僧寿し」の標章が本件商品の出所たる小僧寿し本部又は小僧寿しチェーンを表示するものとして広く認識され、相当大きな顧客吸引力を有していた。
2.勉強会での議論
(1)「取引実情」はどのように立証するのか?(by N先生)
アンケート、シェア等の客観的な数字… 等の証拠は重要。
有効な証拠に基づいて上手い主張ができれば、望む「取引実情」が立証できる
(by S先生)
(2)被告Yは商標の出願をしていなかった?原告Xの商標登録より後に使用開始して、そのまま著名になって逃げきったことになる?(by わい)
商標登録はあくまで保険、
“標識法”だから『著名になった商標は保護価値がある、それを使用禁止にするのは趣旨に反する』(by K先生)
そうですね、うん…
ロジックとしてはよく理解できるけど…
原告Xは「すし」について商標を全く使ってなかったわけではなく、「おにぎり小僧」を使って(登録商標と実質同一の使用といえるかどうかは置いといて)、大阪商圏で商売継続していたので…。
自分の商売に使う商標を登録して正しい(?)道を歩んでいたのに、後発で使用開始して(商標登録せず)パワーで押し切た方が勝ちという結果は、中小企業さんに酷な気がするなぁ~ Xさんやっぱりかわいそう…と思ってしまいます…
(弱肉強食のヒエラルキーで保護価値が決まるなら、極論をいうと、”登録”制度要らんくない?みたいな?(笑))
昔の事案だということもあるのかな?(笑)
(いまはさすがに著名にするような商標を登録しないという選択はない…よね?(笑))
(3)著名だからこそ「非類似」で困る(?)こともある(by K先生)
・原告と被告が逆だったら?(by Nt先生)
たぶん同じように「非類似」で非侵害になる…?(by K先生)
・不使用の場面でも不利益になることも(by N先生)
例えば「養命」vs「養命酒」 http://shohyo.shinketsu.jp/decision/tm/view/ViewDecision.do?number=1272514
議論が白熱して面白かったです!また来週もよろしくお願いします。
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