X型十字商標事件で詠む

X型十字商標事件(令和2年(ネ)第10055号 商標権侵害行為差止等請求控訴事件)

 

侵害と 驚いたけど 覆滅じゃ

  詠み人:中垣さん(@nkgk1017)  が詠んだ一句を勝手に改変させていただきました(←知財人としてあるまじき行為 汗)

【解説】

原告さんのX型十字な登録商標(平面商標)vs 被告さんの靴の側面に付されたX型十字なデザイン の商標権侵害事件です。この事件では、損害賠償請求しかされていなかったようです。

○靴の側面のデザイン?

靴の側面には線から構成されるデザインが付されがちですが、そういったデザインは “あくまでデザイン”とみなされて、出所識別機能発揮してるとは認められにくいですね。岡村さんのブログでも、立体商標や位置商標としては容易に登録されにくいことが解説されています(ヒトのブログを引いて省力化w)。

それで、この事件の被告さんも「これは単なるデザインなんだ」(26条1項6号)と主張しましたが、この主張は認められませんでした。

○38条2項の推定の覆滅事由

原告さん販売商品がお値打ち品で、被告さん販売商品はそれよりだいぶ高額だったことが、覆滅事由として認められました。
『商標権が侵害された場合に,侵害者の得た利益が当該商標権に係る登録商標の顧客誘引力のみによって得られたものとはいえない場合が多くと判示されている点に注目です…。

 

判決文:https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/331/090331_hanrei.pdf

原審判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/783/089783_hanrei.pdf

2021/4/21 令和2年(ネ)第10055号 知財高裁第1部 商標権侵害行為差止等請求控訴事件 25類「履物」等 一部認容
(侵害認定)

スニーカー
判決(抜粋・簡略)
○争点1(原告各商標と被告各標章の類否)について

靴を購入するに際し,側面も含めデザインを細部まで観察するのが通常であるとしても,原告各商標と被告各標章とは,いずれも英文字の「X」型十字が左側(反時計回り方向)に傾いた形で組み合わされた2本の帯からなり,帯状線の輪郭が鋸歯状であるという点において共通し,かかる構成態様は,需要者に対して商品の出所識別標識として強い印象を与えるものと認められ,識別力の強い特徴的部分であるといえるのに対し,相違点①ないし④に係る被告各標章の構成態様は,いずれも一見して目立つ特徴であるとまではいえず,需要者に対して商品の出所識別標識として強い印象を与えるものとはいえない。○ 争点2(被告各標章の商標法26条1項6号該当性)について
…①及び②については,…被告各標章は,別紙被告標章目録のとおり,いずれも被告商品の靴の甲の側面において,側方から見て概ね中央の位置に付されており,上記位置は,靴の外観において特に目立つ部分であること,靴において,上記位置に商標を付すことは一般的に行われていることからすると,上記位置に目立つ大きさで付されている被告各標章は,被告商品の出所識別機能を果たす態様で使用されていることが認められる。
また,靴の側面に付されている標章の形状や位置が同一のメーカー内でも商品ごとに変化を加えているからといって,靴において,商標としての出所識別機能を有する部分は,タンやタグ等に付されたロゴマークに限定されるものと解すべき合理的理由はないし,靴の側面に付された図形が,画一的なデザインでなければ,出所識別機能を果たさないとする合理的理由もない
○争点3(一審原告の損害額)について
・原告請求額 6140万円のうち、195万6000円が認められた。38条2項の損害額
⑶ 推定覆滅事由について
一審被告は,①一審原告の商品と被告商品との価格差及び限界利益額の差,需要者層の相違,販売態様の相違,②一審原告が原告各商標を使
用しない商品を販売していたこと,③競合品の存在,④一審被告の営業努力,ブランド力の差等は,本件推定を覆す事情に該当し,かかる事情を考慮すると,本件推定は覆滅される旨主張するので,以下において判断する。
ア 一審原告の商品と被告商品との価格差及び限界利益額の差,需要者層の相違,販売態様の相違について

(ア) そこで検討するに,証拠…及び弁論の全趣旨によれば,一審原告は,自社の商品を,主に靴の量販店やインターネット上の通信販売サイトを通じて販売し,その小売価格は2000円から6000円程度の商品が中心であり,一審原告が対象期間中に原告各商標と類似する商標を付したスニーカーを販売した際の販売価格は1足当たり3000円程度であったことが認められる。
一方で,証拠…及び弁論の全趣旨によれば,被告商品は主に百貨店等の店頭で販売されたものであり,原判決別紙3被告商品販売一覧表記載のとおり,その小売価格は1万5000円から2万1000円,被告が百貨店等に販売する際の卸売価格は5600円から1万1550円であったことが認められる。
上記認定事実によれば,一審原告の商品と被告商品の販売価格は,1足当たりの小売価格で5倍から7倍程度の差があり,被告商品が高額であることが認められる。
そして,商標権が,特許権等の他の工業所有権とは異なり,それ自体に創作的価値があるものではなく,商品又は役務の出所である事業者の営業上の信用等と結びつくことによってはじめて一定の価値が生ずるという性質を有するため,商標権が侵害された場合に,侵害者の得た利益が当該商標権に係る登録商標の顧客誘引力のみによって得られたものとはいえない場合が多く,スニーカーにおいても,価格,全体のデザイン,アッパー及びソールの素材,履き心地等も考慮されて購買動機が形成されることに照らすと,一審原告の商品と被告商品との販売価格の上記違いは,原告各商標と類似する被告各標章が購買動機の形成に寄与した程度を低く評価すべき事情に当たるものと認めるのが相当である
したがって,一審原告の商品と被告商品との販売価格の上記違いは,本件推定を覆す事情に該当するものと認められる。
一方で,一審被告が主張する一審原告の商品と被告商品との1足当たりの限界利益の額の差については,一般に,需要者が限界利益の額を認識し得るものではなく,限界利益の額の差が購買動機の形成に直接影響するものとはいえなから,本件推定を覆す事情に該当するものと認めることはできない。また,一審被告が主張する一審原告の商品と被告商品との販売態様の差についても,被告商品がデパート等でのみ限定販売されていたとする事情は認められないから,本件推定を覆す事情に該当するものと認めることはできない。
ウ 競合品の存在について
一審被告は,側面に「X」型十字が付された大人用スニーカーは,被告商品の他にも市場に多数存在していることは,本件推定を覆す事情に該当する旨主張する。
しかしながら,乙1によれば,一審被告が他のスニーカーに付されていると指摘する「X」型十字は,その形状が被告各標章や原告各商標とは大きく異なるものであり,このほか,原告各商標と同一又は類似の標章が付された他社のスニーカーの存在及びそのシェアについての具体的な主張立証はされていないから,一審被告の上記主張は採用することができない。
 以上を前提に検討するに,①前記ア(ア)認定の本件推定を覆す事情の内容,②前記ア(ア)認定のとおり,商標権が侵害された場合に,侵害者の得た利益が当該商標権に係る登録商標の顧客誘引力のみによって得られたものとはいえない場合が多く,スニーカーにおいても,価格,全体のデザイン,アッパー及びソールの素材,履き心地等も考慮されて購買動機が形成されること等を総合考慮すると,被告商品の限界利益の額に対する原告各商標の寄与割合は,8割と認めるのが相当であり,上記寄与割合を超える部分については被告商品の限界利益の額と一審原告の受けた損害額との間に相当因果関係がないものと認められる。
備考・コメント
原告と被告は過去にも他の訴訟で争った経緯がある。
平成28年(行ケ)第10230号 審決取消請求事件

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