弁理士会が発行している『パテント』という雑誌のvol.73(2020.2)で、面白い論考がありました。『商標情報を利用した知財活動および知財戦略の検討』という論考です(by 乾 利之 先生)。
「IPランドスケープとか言っても、特許しか対象にしとらんじゃん?」と思っていたので、この論考は興味深く拝見いたしました(かなり力作なので興味がある方は一読をお勧めします!☆)。
今回は、この論考の中で”「事業活動に寄与するネーミング」とはどんなものか”を、出願商標のデータで分析した項についてご紹介するとともに、多少のコメントもしたいと思います。
1.データ分析の着目点
(1)論考においては、ネーミングが「示唆的」であるか、「独創的」であるか、というところに着目して分析した、とされています。
(2)「示唆的」なネーミングとは、商品やサービスの内容を間接的に示唆するようなネーミングです。この論考では、「機能型」「用途型」「効果型」「対象者型」「構成型」「分野型」に分類しているとのことです。
なお、この論考では、新商品情報を取得することを目的としているため、ネーミング自体が示唆的でなくても、そのブランドに関する情報から商品に関する情報を取得できる「ブランド商標」(ファミリーネームに属する「ペットネーム」とかのことかな…?)も「示唆的」に含めているようですので、一般的にいうところの「示唆的」とはいえないものも含まれている可能性がありそう?
ちなみに、「示唆的」としてよく挙げられる例は、ソフトウェアに「Microsoft」等があります。
実は弊所の名前「あいぎ」も「示唆的」だったりするけど、東海三県の方ならわかってくれる!?
(3)一方、「独創的」なネーミングとは、オリジナルなネーミングです。この論考では、「造語型」「キャラクター型」「イメージ型」「コーポレートブランド型」に分類しているとのことです。
「独創的」としては、「Google」とかね。
(4)企業が出願した商標のうち「示唆的」な商標は、およそ40-90%で、平均72.1%であるとの調査結果だそうです(「化学(日用品)」5社、「食品・飲料」13社、「スポーツ用品」6社、「電子機器」13社、「輸送機」5社の合計42社の商標情報より)。
2.事業活動への寄与度が高いのは、「示唆的」と「独創的」のどっち?
さて、ここから本題です。
(1)論考では、以下の分析結果が示されています。
(i)示唆率と「営業利益/売上」
分析結果
①示唆率が低い(「独創的」な商標の割合が高い)ほど「営業利益/売上」が高い(利益率が高い)傾向がある。
②高い利益率を達成するためには、ブランド力が必要であることを示す結果の一つであるとも考えられる。
②は『ブランド力があるから利益率が高い』ということを裏から示しているともいえるでしょうか(ブランディングの目的は「利益率を上げること」ですので、「独創的商標」を採用して、ブランディングを行った結果、利益率が上がった、というシナリオが考えられます)。
この論考では、”「独創的商標」は差別化しやすいから、高い信用を獲得・蓄積できる”という前提に立って、『「独創的商標」=ブランド力の高い商標』としているようですが、これを示す客観的な分析結果があると腹落ちしやすいかな?
そういった分析結果があると『「独創的商標」を採用した方が、差別化しやすくブランディングの効果もあがりやすいため、利益率も上がる』との説得力が増しそうです。
(ii)示唆率と「広告宣伝費/売上」
分析結果
①示唆率が高い(「示唆的商標」の割合が高い)ほど、「広告宣伝費/売上」が低い(同じ売上に必要な広告宣伝費が少ない)傾向がある。
宣伝広告費をかけられないから、聞いただけで商品/サービスがピンとくるような「示唆的」なネーミングを採用するというパターンも多いと思うので(弊所の中小企業のお客さんでは多い)、この分析結果はそういうことも暗示しているのでしょうか。
(iii)示唆率と「広告宣伝費/利益」
分析結果
①示唆率が低い(「独創的商標」の割合が高い)ほど、「広告宣伝費/利益」が低い(同じ営業利益に必要な広告宣伝費が少ない)傾向がある。
(i)の分析結果の『ブランド力があるから利益率が高い』と関連してそうです。
ただ、どの時点での広告宣伝費であるかについては、若干留意が必要のように思います。例えば、ブランド力を獲得するまでに投入した広告宣伝費が大きい場合は、”ブランド力を獲得した後の”という注釈付きの分析結果になるように思います。
(2)で、結論としては?
経験的に感じていることがデータで明らかに示されているので、面白かったです。素晴らしい分析をしてくださった乾先生に感謝!
ただ、この結果をもって直ちに「示唆的/独創的商標を採用すると××できる」ともいいがたいかな?と思いました。ブランド力も、ネーミングだけで左右されるものではないですしね。
●「示唆的商標」について
論考データでも平均72.1%が「示唆的商標」ということからすると、特に中小企業さんの場合、宣伝広告費をかけられないことが多いので、商品/サービスの内容がピンとこないような「独創的」な商標は少々ハードル高いかもしれず、「示唆的商標」を採用する方が現実的な場合が多いかもしれません。
「示唆的商標」については、経験的には以下のような事例はわかりやすいと思います。
a) 自社独自/新規の機能・用途等の商品/サービスについて「示唆的」なネーミングを採用すると、ヒットに結び付きやすい
自社独自/新規の機能・用途等が覚えやすく記憶に残りやすいからでしょうか。
例えば、小林製薬さんのネーミング「ブルーレットおくだけ」「熱さまシート」「トイレその後に」…等などが好例だと思います。
b) a)のように自社独自/新規の機能・用途等でも、参入障壁が低い商品/サービスについて「示唆的」なネーミングを採用すると、ヒットした場合は、寄せられやすい
例えば、当初新規なサービス形態であった「いきなり!ステーキ」の登場後、「カミナリステーキ」「アッ!そうだステーキ」「やっぱステーキ!や」…等など、どんだけ寄せとんのー(しかし商標権侵害ではない)みたいなお店がたくさん出てきたことは、記憶に新しいのでは。
(※ちなみに、「いきなり!ステーキ」の会社は、このビジネスモデルの特許権を取得しましたが、異議申立がなさされてその対応の手続で権利範囲が狭くなりました。当初はある程度参入障壁の役割を果たしていた様子ですが…。この一連の経緯も知財的に注目を浴びました。)
c) a)のように自社独自/新規の機能・用途等で、参入障壁が高い商品/サービスについては、「示唆的」なネーミングを採用しても、ヒットした場合も、寄せられにくい
参入障壁が高い機能・用途等の商品/サービスが、a)のようにヒットしたら最強。
例えば、自社独自の技術を表す名前(技術ブランド)であれば、他社はそもそもその技術を持ってないので、寄せようと思っても寄せられない…みたいな。
●「独創的商標」について
「独創的商標」を採用する場合は、採用する時点から”しっかりブランディングする”という気合を入れる必要があるけど、ブランディングに成功すれば高い利益率が望める、ということでしょうね。
「独創的商標」であれば、ヒットしても寄せられにくく、差別化もよりしやすい、というデータ分析結果があると、なおよしですね(←わがまますぎ?)。
ネーミングも大切です。ですが、いかにビジネスモデルを組み立てて、そのネーミングをどう活かすか?も同様に大切ですね。
まあ、当たり前ですが‥
以上、お役に立つような情報になってますでしょうか?(;^_^A
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