昨日の続きです。
本件意匠と被告製品意匠を対比してみましょう。
共通点はここだ!と認定されています。
『基本的構成態様がすべて共通であるほか,以下の具体的構成態様が共通する。
(ア) 容器本体及び蓋には,小さな正方形のマス目状の透孔が縦7列横10行(透孔の総数70個)で設けられている。
(イ) 容器本体の収納部には仕切りがなく,内部壁面は底面から略垂直になっている。
(ウ) 容器本体の左右側面に,蓋の突起と係合する段差が,同突起の幅よりも広い範囲で設けられている。
(エ) 蓋の一方の短辺に,中央に間隔を開けて2個,他方の短辺の中央部に1個の,レ字状突起がそれぞれ設けられている。
(オ) 容器本体の長辺部に,底面から本体の高さの4分の1程度の高さの位置で,側面に略垂直に突出し,さらに底面に略垂直になるように段差(本件段差)が形成されている。』(原審判決23頁より抜粋)
それでは、これら共通点が類否判断に及ぼす影響は?
裁判所は、基本的構成態様やら、(ア)(イ)は本件意匠の要部と認められず、両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものではない、としたのでした。
また、(ウ)(エ)についても、『需要者に与える美感は限定的というべきである。』としたのでした(原審判決文25頁)。
一方、(オ)の「本件段差」は、本件意匠の要部と認められてましたが、どう判断されたのでしょう?
『本件段差は,需要者の注視する構成であり,また,両意匠はこの点においても共通しているということができる。
しかし,本件物品の容器本体の正面図を観察すると,本件登録意匠において,本件段差自体の存在のみによって美感を生じているわけでなく,本件段差により,容器本体の下部4分の1程度が,上部より一回り小さな台を形成することにより得られる全体の印象によっても,美感を想起しているということができる。そして,この段差によって分割された下部は,前記…のとおり,被告脚部の存在により,本件登録意匠と顕著な差異点が認められ,その結果,両意匠によって異なる印象を与え,本件段差によって想起される美感は,同じとはいえない。』(原審判決文25~26頁。下線は私が付しました)。
「脚部」ですか。
っていうか、その他の差異点はどこなんでしょう?
『(ア) 容器本体に係る差異点
a 被告製品意匠の容器本体には被告切り欠き部が設けられているが,本件登録意匠にはかかる切り欠き部は存在しない(以下「差異点1」という。)。
b 被告製品意匠の容器本体底面には被告脚部が設けられているが,本件登録意匠にはそのような脚部は存在しない(以下「差異点2」という。)。
c 被告製品意匠の容器本体底面の透孔は内壁に密着しているが,本件登録意匠の同透孔は内壁に密着していない(以下「差異点3」という。)。
d 被告製品意匠には,容器本体短辺側の開口端面に被告階段状部が設けられているが,本件登録意匠にはそのような階段状部はない(以下「差異点4」という。)。』(原審判決23~24頁)
『(イ) 蓋に係る差異点
a 被告製品意匠の蓋の平面には,棒状の被告長孔が周縁部に3箇所設けられているが,本件登録意匠にはかかる長孔はない(以下「差異点5」という。)。
b 被告製品意匠の蓋は,平面視の四辺が直線で形成されているのに対して,本件登録意匠では長手方向の一端部が切り欠かれている(以下「差異点6」という。)。
c 被告製品意匠の蓋に設けられた突起の幅W1は,本件登録意匠の同突起の幅と比べて小さい(以下「差異点7」という。)。
d 被告製品意匠の蓋には底面視においてロ字状(7×10で配列された透孔の集合体を囲む形で)のリブが設けられているが,本件登録意匠のリブは一対の凹字状(コ字状)になっている(左右の短辺において切り欠いている。)(以下「差異点8」という。)。』(原審判決24頁)
それでは、脚部(共通点2)“以外”の差異点が類否判断に及ぼす影響は?
まず、差異点1(被告容器本体切り欠き部)及び差異点4(被告容器本体階段状部)については、本件出願時に公知ないし周知であったとは認めるに足りる証拠はないものの、切り欠き部は決して大きくない&階段状部もごく小さい、しかも蓋を閉めちゃうと容易に見えなくなるし、
需要者が薬液等の透過を期待するのは主として透孔であり、被告切り欠き部により形成される薬液入出孔ではないので
『被告切り欠き部や被告階段状部に注目するとは考えにくい。よって,被告切り欠き部及び被告階段状部の有無に係る差異点1及び4は,両意匠の類否判断において大きな影響を与えないというべきである。』
としました(原審判決文26~27頁)。
次に、差異点3(被告容器本体底面の透孔の配置)及び差異点5(被告蓋長孔)については、本件類似意匠2号や類似意匠3号も、同様の構成が示されていることが認められるので、両意匠の類否判断に影響を与えないというべきである、としました(原審判決文29頁)。
また、差異点6(被告蓋切り欠き部)については、一応新規の形態と評価できるものの、同切り欠き部の深さはわずかで、本件物品の使用態様に照らしても需要者の注意を惹くとも考えにくいので、類否判断における影響は限定的であるとしました(原審判決29~30頁)。
さらに、差異点7(被告蓋の突起の幅)は類似意匠2号・3号とほぼ同じだし、類否判断に影響しないとし、
差異点8(被告蓋底面のリブ形状)は差異自体が決して大きくなく、本件物品の使用態様に照らしても需要者が注目するとは考えにくいので、類否判断に影響しないとされました。
さて。
問題の差異点2(被告容器本体の脚部)です。
脚部があるかないかは、両意匠の類否判断にいかに影響を及ぼすとされたのか。
…については、次回にて。
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