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【中国特許】中国専利指南の改正

2024.02.01

2021年6月の中国の専利法(特許法)の第4次改正に伴い、専利法実施細則及び専利審査指南(特許審査基準)が改正され、2024年1月20日から施行されています。

今回の改正うち、実務への影響が大きい、コンピュータプログラム関連発明の取り扱いに関する審理指南の改正について、ポイントを以下に記載します。



コンピュータプログラム関連発明の審査において、これまで問題となっていた4つの課題(スライドでは「テーマ」)に対してアプローチがなされました。

課題1:コンピュータプログラムをクレームの主題とすることができない。
→ 「コンピュータプログラム製品」がクレームの主題として追加された。

課題2:AI、ビッグデータに係る発明の特許適格性は?
→ AI、ビッグデータに係る発明の特許適格性の判断について、審査基準が明示されると共に審査例が示された。

課題3:アルゴリズムがコンピュータシステムの内部性能を向上させる場合、技術方案に対するアルゴリズムの貢献は進歩性の判断に考慮されるべきでは?
→ 「進歩性の判断を行う際、アルゴリズムの特徴が技術方案に対して与えた貢献を考慮しなければならない」ことが追加された。

課題4:「ユーザ体験の向上」を進歩性の判断材料にできないか。
→ 進歩性の判断を行う際、ユーザ体験の向上を考慮しなくてはならないとされる一方、技術的特徴の改良によってもたらされた場合に限定されることが明示された。

<課題1> コンピュータプログラム関連発明のクレームの主題

中国ではコンピュータプログラム自体は、特許の保護対象となっていないため、改正前は、以下をクレームの主題としていました。

l コンピュータ装置/デバイス/システム(SWとHWの組み合わせ)

l コンピュータで読み取り可能な記憶媒体

l 方法

上記のクレームでは、ダウンロード型のプログラムなど、ハードウェアを伴わないコンピュータプログラム製品の保護が難しい状況でした。

今回の改正で「コンピュータプログラム製品」がクレームの主題として認められたことにより、ハードウェアを伴わないコンピュータプログラムを物としてクレームすることが可能になりました。記載方法としては、「コンピュータで読み取り可能な記憶媒体」と同様です(本記事末尾のPDF「専利審査指南2023_第2部第9章(和訳)」のP. 2452-142)の【例4】ご参照)。

なお、「コンピュータプログラム製品」は日本の「コンピュータプログラム」と同等と考えられるようです(プログラムに相当する中国語は「方法」のニュアンスも含むため、単に「プログラム」とすると物か方法かの区別が付き難く、「製品」を追加することで物であることが明確になるようです)。

この改正により、コンピュータプログラム関連発明のクレームドラフティングがより容易になると思いますが、一方で、すでに国際出願済みの案件の中国への移行時やすでに審査段階にある案件のOA対応時の補正などにについて、以下のような疑問があり、現時点でその回答は公表されていません。

l 「プログラム製品」をクレームアップする補正が可能な時期は?

l 明細書中に「製品」という文言が無い場合、「プログラム製品」のクレームアップは可能?

l 日本出願の「プログラム」クレームを「プログラム製品」クレームに変更して中国出願可能?

上記について明確にされていないため、運用方法については現時点で不透明ではあるものの、以前の改正により「コンピュータで読み取り可能な記憶媒体」が保護対象となった際、その文言が明細書に記載されていなくてもクレームアップが認められたことから、今回も似たような運用になることが予想されます。

課題2~4は、すでに実務では行われていることが明文化されたにすぎないようですが、確認のため以下に要点を記載します。


<課題2> AI、ビッグデータに係る発明の特許適格性

専利法第2条には、「発明とは、製品、方法又はその改良に対して行われる新たな技術方案をいう」と規定されています。この条文に基づくコンピュータプログラム関連発明の審査について、今回の審査指南の改正では、2つの段落が追加されました。

追加された2つの段落では、以下の場合には専利法第2条の技術方案に該当する(特許適格性を有する)ことが示されています。

追加段落1:
AI/ビッグデータアルゴリズムの改良に関し、アルゴリズムとコンピュータシステムの内部構造に特定の技術的関連があり、データ保存量/伝送量の低減、ハードウェアの処理速度の向上など、ハードウェアの演算効率や実行効果をいかに高めるかという技術的課題を解決し、それにより自然法則に準拠したコンピュータシステムの内部性能を向上させる技術的効果が得られる場合。

◆ポイント1◆

技術的課題の解決/技術的効果の取得が以下の①及び②のいずれによるものかを判断:

①アルゴリズム自体の最適化
 例えば、単純なニューラルネットワーク圧縮プルーニングによりモデルをスリミングした結果、処理データ量/記憶量の低下演算効率の向上などの効果を得ることができた場合

②アルゴリズムとコンピュータシステムの内部構造との間の特定の技術的関連

①の場合は特許適格性なし、②の場合は特許適格性あり

◆ポイント2◆

「特定の技術的関連」とは、必ずしもハードウェア自体の改良(ハードウェアの構造の改良)との関連性を意味するものではなく、ソフトウェア的にコンピュータの内部性能を改善(データ記憶量/転送量の低減、処理速度の向上など)させるような場合を含む。
PDFP. 2522-149)~P. 2552-152)に審査例(【例5】~【例7】)が載っていますのでご参照ください。

追加段落2:
技術方案が特定の技術分野のビッグデータを扱い、分類、クラスタリング、回帰分析、ニューラルネットワークなどを使用して、自然法則に準拠するデータの内部(固有)の相関関係をマイニングし、それに応じて特定の技術分野におけるビッグデータの分析の信頼性や精度をいかに高めるかという技術的課題を解決し、対応する技術的効果が得られる場合。

◆ポイント1◆
マイニングされたデータの内部の相関関係が自然法則に準拠するものであり、技術的課題を解決可能であれば、特許適格性あり。

◆ポイント2◆
膨大な数のビックデータに対してマイニングをし続けると、データ間に一定の相関関係があることを発見することがあるが、相関関係を有するデータがすべて自然法則に準拠するものでなければ、特許適格性を有するとは言えない。

例えば、マーケティング業界では「ビールとベビー用おむつは一緒に買われる」という俗説が広く知られているが、このような相関関係は、自然法則に準拠しているとは言えない。


<課題3> 進歩性判断におけるアルゴリズムの特徴が技術方案に与えた貢献の考慮

課題2の追加段落1のポイント1における判断結果が②の場合、進歩性を判断する際には、アルゴリズムの特徴が技術方案に与えた貢献を考慮しなければならない、と考えてよさそうです。

PDFP. 2632-160)~P. 2642-161)に審査例(【例15】)が載っていますのでご参照ください。


<課題4> ユーザ体験の向上を進歩性の判断材料に含める

今回の改正では、進歩性の判断に「ユーザ体験の向上」を考慮しなければならないことが明示されました。

「ユーザ体験」とは、例えば、マウスやキーボードの構造改良による操作性の向上、デリバリーにおけるデリバリー経路の最適化によるユーザの満足度の向上(デリバリー時間の短縮)などが挙げられます。

一方、ユーザ体験の向上が考慮される範囲は、「技術的特徴の改良」によりもたらされたものに限られます。

例えば、デリバリーにおけるユーザ満足度は、上記の「デリバリー経路の最適化」以外にも「デリバリーボーナスの付与」(デリバリー担当者に付与されるボーナス)を行うことで、デリバリー担当者がデリバリーボーナスの大きなところへ優先的に配達した結果、デリバリー時間が短縮され、ユーザ満足度を向上させることができるかもしれません。

しかし、このような手段によるユーザ満足度の向上(ユーザ体験の向上)は、「経済的補償手段」によるものであって、「技術的特徴の改良」によるものではありません。したがって、このような手段による「ユーザ体験の向上」は、考慮対象外となります。

PDFP. 2612-158)~P. 2622-159)に審査例(【例13】)が載っていますのでご参照ください。

【出典】
JETRO 専利審査指南2023_第2部第9章PDF
DRAGON IP事務所セミナー『専利審査指南2023 コンピュータプログラム関連発明の改正』テキスト