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【米国特許】特許適格性の判断に登場する「directed to」ってどういう意味?

2024.08.08

米国特許法第101条に基づく特許適格性の判断では、
directed to」や「integrate the judicial exception into a practical application
といった、すんなり頭に入ってこないようなフレーズがよく登場します。
前者は「向けられている」、後者は「司法例外が実用的応用に統合される」
などと訳されることが多いのですが、自分の中ではいまいちピンときません。

そこで今回は、「directed to」が 意味することについて考えてみたいと思います。
本記事の内容は個人的な考察ですので、特許適格性の判断に関する記事など、
ちょっとヘビーな内容にお腹一杯! という時に、箸休め感覚で読んでいただければ幸いです。

特許適格性の判断には「2ステップテスト」が用いられ、MPEPの
「2016 Patent Subject Matter Eligibility」(2106-Patent Subject Matter Eligibility 
に記載されているフローチャートの手順に沿って判断が行われます。

フローチャートのStep 2Aには以下のように記載されています。
「Is the claim directed to a law of nature, a natural phenomenon (product of nature),
or an abstract idea?」
上記英文中の「a law of nature」、「a natural phenomenon (product of nature」、
「an abstract idea」 は、保護対象ではない「a judicial exception(司法例外)」です。

「directed to」は日本語に翻訳するのが非常に難しい表現です。Step 2Aの文を直訳すると、
「クレームは自然法則、自然現象(自然の産物)、または抽象的概念に向けられているか」
となりますが、??という感じです。

 特許適格性がよく問題になるのは、ソフトウェア関連発明だと思いますので、ソフトウェア関連発で
最もよく指摘される「抽象的概念」を例にして、「directed to」がどういうことを意味しているのか
について考えていきたいと思います。

 例えば、クレームに
1)入力を受信し、
2)Aを適用して前記入力から出力を生成し、
3)前記出力をBに向けて送信する
と記載されていたとします。
この場合「The claim is directed to an abstract idea」との指摘を受ける可能性が高いです。

上記1)~3)は、作業ステップを記載しているに過ぎず、「機械でなければできない」 こと
でもありません。つまり、クレームは具体的な構成が明示された物や実際に動く有体物について
限定している訳ではなく、広く考えれば、クレームの限定には人の概念や思考、動作も含まれている
と解釈することができます。

上記のように広く解釈した場合、クレームが対象としていること(クレームが意図していること)
は抽象的概念であるとも言えるのではないでしょうか。
そのため、Step 2Aの文は「クレームは抽象的概念を対象としているか」というように訳されます。

Step 2AがYESの場合、「クレームは抽象的概念を対象としている」と指摘される訳ですが、
個人的には「クレームは抽象的概念を対象としている」と言われてもまだモヤっとします。

「direct to」の本来の意味は、「~に向かわせる」とか「~へ誘導する」といった感じなので、
本来の意味で考えれば、「The claim is directed to an abstract idea」の意味するところは、
「クレームが行き着く先は抽象的概念である」といった感じでしょうか。
より直接的に言えば、「クレームは抽象的概念の範囲のことしか言っていない」ということ
だと思うのですが、米国は判例法の国ですので、条文等の表現はモヤっとさせておいて、
各裁判の中で然るべき解釈をしてくださいといったところでしょうか。

実は、USPTO発行の「2014 Interim Eligibility Guidance Quick Reference Sheet」
には以下の記載があります。
「"Directed to" means the exception is recited in the claim, i.e., the claim sets forth
or describes the exception.」
("Directed to"とは、司法例外がクレームに記載されている、つまり、クレームは司法例外
について"set forth"または"describe"していることを意味する。)

上記のように定義されているということは、「directed to」は日本語の適訳が無いためモヤっとする
というだけでなく、米国人的にもモヤっとする表現なのでしょうか。
なお、「set forth」と「describe」はどちらも「説明する」というような意味合いですが、
微妙にニュアンスが違うので、英語では両方使われていると思われます。

「司法例外がクレームに記載されている」は、裏を返せば「クレームには司法例外しか
記載されていない」と解釈することもでき、上述した「クレームは抽象的概念の範囲のことしか
言っていない」という解釈は概ね適切だと思われます。

実務では、OAで「The claim is directed to an abstract idea」との指摘を受けた場合、
審査官は「クレームは抽象的概念の範囲のことしか言っていない」と思っていると理解し、
クレームの限定が「機械でなければできない」こととは読めないのか、「人が行うこと」や
「人間の頭の中でもできること」も含んでしまうような表現になっているのか、クレームを
見直す必要がありそうです。

次回は「integrate the judicial exception into a practical application」が意味するところ
について考えてみたいと思います。