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【米国特許】機械/電気分野の方法クレーム ~日米の違いと日本明細書/図面に記載しておくべきこと~ その②

2025.05.21

米国の方法クレームの記載方法

前回は、機械/電気分野の特許出願における方法クレームの日米の違いについて解説するとともに、日本式の方法クレームが米国において問題となる点について、具体例を使って解説しました。

今回は、その問題点を踏まえて、米国の方法クレームをどのように記載すればよいかについて解説したいと思います。

■前回のおさらい
前回は、以下の独立クレームを具体例として挙げました。 

金属部材とプラスチック部材との複合構造体の製造方法であって、
金型内に、前記金属部材と繊維部材と熱硬化性接着剤とを前記金型の型締め方向に積層させる積層工程と、
前記金型を型締めすることで前記熱硬化性接着剤を前記繊維部材内に浸透させてプラスチック部材を成形するとともに、前記プラスチック部材を前記金型によって規定される形状に成形するプラスチック部材成形工程と、
前記金型を加熱して前記金型内で前記熱硬化性接着剤を硬化させることで、成形後の前記プラスチック部材を硬化させるとともに、前記プラスチック部材と前記金属部材とを接着する接着工程と、
を備える複合構造体の製造方法。

上記クレームの米国における方法クレームとしての問題点は以下の通りでした。 

①構成要素が「工程」で記載されている。
② 1つの構成要素に複数の動作が記載されている。
③どの動作が構成要素であるのかが不明瞭。
④英語の問題。

■米国式方法クレームの記載方法
上記の問題を踏まえて、上記独立クレームを米国式に書き換えてみます。
なお、下記クレームは、あくまでも米国式の記載方法を解説するためのものであって、新規性/進歩性を考慮したものではありませんので、ご了承ください。

複合構造体の製造方法であって、以下を備える:
凹部を有する第1金型と、前記凹部の形状に対応する形状を有する凸部を有する第2金型と、を用意し、
前記凹部に金属板を配置し、
前記金属板の外面に熱硬化性接着剤を塗布し、
前記熱硬化性接着剤上に繊維ブロックを配置し、
前記凸部が前記凹部に配置されるまで、前記第1金型と前記第2金型のうちの少なくとも一方を動かし、
前記繊維ブロックが前記金属板に押し付けられて前記熱硬化性接着剤の一部が前記繊維ブロックの内部の隙間に入り込むまで、前記第1金型と前記第2金型のうちの少なくとも一方を更に動かし、
前記第1金型と前記第2金型を加熱し、
前記繊維ブロックを前記金属板に固定し、前記繊維ブロックを前記第1金型と前記第2金型によって規定される形状に成形するよう、前記熱硬化性接着剤が硬化するまで前記第1金型と前記第2金型を維持する。

(1)用語変更について
構成要素の変更について解説する前に、「金属部材」→「金属板」、「繊維部材」→「繊維ブロック」の用語変更について解説します。

米国の審査では、構成要素の限定範囲が広すぎると、審査対象のクレームの技術分野とは異なる技術分野の引例を挙げられてしまう可能性があります。日本の実務者からすると、びっくりするほどまったく関係ない技術分野の引例を挙げられることがあります。
また、構成要素同士の関連性(リンク)が明確でない場合、構成要素ごとに、まったく関連性のない技術分野の引例をあてられてしまう可能性があります。
今回の例のように、あまり特殊な技術的特徴のない発明の場合、登場する部材はある程度具体的なもの(実施形態に記載されているもの)にしておくと、First OAでより近い引例を挙げてもらうことができます。

(2)構成要素の変更について
上記の米国式方法クレームの構成要素は、元のクレームの構成要素とはかなり違っていますが、主な変更点は以下の通りです。

・プリアンブルを単に「複合構造体の製造方法」と記載
前回挙げた問題点に関するものではありませんが、前回解説した通り米国ではプリアンブルは「自認の先行技術」と捉えられるため、必要最低限の記載に留めておくとよいです。

・各構成要素を「工程」ではなく、1つの動作とし、動詞で終える
 ※①~③の問題に対応
例えば、元のクレームの「積層工程」を3つの動作(「配置し」、「塗布し」、「配置し」)に分けています。
このように記載することで、各構成要素が「結果」や「目的」ではなく、「動作」を表していることが明確になります。

・最初に、「第1金型と第2金型を用意する 」という動作を記載
 ※④の問題に対応
前回解説したように、型締めするためには少なくとも2つの金型が必要です。
元のクレームは、「金型内に」というように、金型が突然登場する書き方になっていますが、米国式クレームでは、まず、第1金型と第2金型を登場させています。
米国の方法クレームでは、何かを使用してクレームしている方法を実施する場合、まずその何かを登場させると、それを使った「動作」を後の構成要素として、より記載しやすくなります。
これには、「用意する」と記載する技法がよく使われます。この場合の「用意する」は、それを作ることまでは意味していません。例えば、「金型を用意する」であれば、「金型を作る」ではなく、「目の前に置く」程度の意味です。
まず初めに「金型を用意する」と記載することで、この方法が金型を使って実施されることがより明確になります。

・「プラスチック部材成形工程」と「接着工程」を金型の動きで記載
 ※①、③、④の問題に対応
元のクレームの「プラスチック部材成形工程」では、「金型を型締めすることで」というように、実際に行う「動作」が最初に記載され、「プラスチック部材を成形する」という「結果」(又は「目的」)が後に記載されているため、米国式の考え方においては、「何を行うのか」が不明瞭になっています。
これは、日本語と英語の違いによって生じる問題でもあります。
日本語と英語は文の構成が逆ですよね?例えば、日本語の場合、動詞は文の最後に置かれますが、英語では、主語の後(文の前の方)に置かれます。文章の構成もしかり。日本語では、まず説明を書いてから結論を書くのが一般的ですが、英語では、まず結論を書いてから説明を書くのが一般的です。(余談ですが、アメリカ人に「道路といい、日本はすべてが逆!」と言われたことがあります。)
ならば、「結果」と「動作」の記載順を逆にすればよいのでは?と想像がつくのではないでしょうか。
そう、逆にすればよいのです。つまり、「金型を動かすことによって、所望の状態にする」(日本式)のではなく、「所望の状態になるまで、金型を動かす」(米国式)ようにすれば「動作」がハッキリします。
この「逆にする」ことは、答えがわかっていれば簡単に感じるのですが、実際やってみると意外と難しかったりします。頭を柔らかくして考えてみてくださいね。
※米国の方法クレームでは、「物」の限定をあまりしない方がお得感があるわけですが、「プラスチック部材成形工程」を動作で記載することで「プラスチック部材」を登場させずに済みます(もちろん、プラスチック部材を成形することに意味がある場合は、プラスチック部材を登場させます)。

■英文クレーム
英文クレームにおける「動詞のing形で始まるリスト形式」が実際どのようなものであるかをお見せするために、上記和文クレームの英訳を以下に記載します。

A method of manufacturing a composite structure, the method comprising:
preparing a first die that includes a cavity and a second die that includes a protrusion that has a shape corresponding to a shape of the cavity;
placing a metal plate in the cavity;
applying a thermosetting adhesive to an outer surface of the metal plate;
placing a fiber block on the thermosetting adhesive;
moving at least one of the first die and the second die until the protrusion is placed in the cavity;
further moving the at least one of the first die and the second die until the fiber block is pressed against the metal plate and some of the thermosetting adhesive is forced into gaps in the fiber block;
heating the first die and the second die; and
maintaining the first die and the second die until the thermosetting adhesive is cured to fix the fiber block to the metal plate and to mold the fiber block into a shape defined by the first die and the second die.

 次回は、いよいよ本題の「日本明細書/図面に記載しておくべきこと」について解説したいと思います。

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