意匠法改正について -複数国一括出願が可能に-
平成27年5月13日に改正意匠法が施行される予定です。そこで、意匠法の改正の内容について簡単に解説いたします。
1.意匠法の改正の目的
これまで、特許については「特許協力条約(PCT)」、商標については「マドリッド協定の議定書(マドプロ)」によって、複数国へ一括出願できましたが、意匠についても、5月中旬より、いよいよ一括出願ができるようになります。
また、併せて、各国から日本へなされる出願についても、ハーグ協定ジュネーブアクトに基づいて適切に審査等するための規定が整備されます(このような出願を「国際意匠登録出願」といいます)。
2.国際登録出願(日本から各国へなされる出願)の概要
(現在、ハーグ協定に加盟しているのは、60の国や地域です。日本の出願人の出願が多い国ですと、欧州・韓国は加盟済み、日本・米国は2月13日に同時に加入書寄託済み、中国は加盟を検討中となっています。)
(1)国際登録出願による手続の流れ
(2)メリット
a) 複数の加盟国へ一括で出願できます。
b) 費用が安いです。
c) ご自宅のパソコンからご自分で簡単に出願手続ができます。
d) 図面の要件が日本ほど厳しくありません(ただし、下記(3)の注意点にご留意ください)。
e) ロカルノ分類の同一区分内であれば、1つの出願に最大100意匠まで含めることができます(ただし、下記(3)の注意点にご留意ください)。
f) 各国での審査期間(拒絶通報が出される期限)が定められているので、一定期間内に権利の有効性の見通しを立てることができます。
g) 権利の管理が簡単です(更新・移転等の手続は国際事務局に行えばよく、国ごとに行う必要がありません)。
(3)注意点
一見するとメリットは大きいようですが、特に、以下の点には注意が必要です。
a) 国際公表
原則として、国際登録から6か月で国際公表なされます。国際公表の繰り延べ請求もできますが、国際公表(かつ国際登録)がなされないと審査が開始されない国もあり(日本等)、登録前でも内容が公知になることに注意が必要です。また、繰り延べは指定国の中で最も短い期間を採用している国に合わせて行われることや、「繰り延べ請求不可」と宣言している指定国があると(シンガポール等)繰り延べはなされないことにも注意が必要です。
b) 拒絶通報の内容公開
審査国で拒絶通報が出されると、国際事務局に送付され、拒絶通報の内容(先行意匠の情報等含む)が国際登録簿に記録されます。国際登録簿に記録された情報は、手数料を支払えば誰でも入手できるため、競合他社にとって匠権抵触を回避したり、権利行使をしたりする参考情報になり得ることに注意が必要です。
c) 各国の宣言事項
加盟国はハーグ協定の基本ルールとは異なる運用を行う宣言ができ、指定国が宣言している事項に注意が必要です(日本・米国・中国等は、そのような宣言をする予定と言われています)。例を挙げると、中国は「国際公表の繰り延べ請求不可」と宣言する予定と言われており、中国を指定すると国際公表の繰り延べができなくなる可能性があります。また、例えば、図面に関しては、米国は従来からの特有な図面表現方法を維持すると言われており、中国は立体的意匠に6面図を要求すると言われていますので、これら加盟国を指定するときは各国の法制に合わせた図面を作成する必要があると考えられます。
以上のように、注意点は日本の意匠法とは異なるため、メリット・注意点の双方を理解した上で、国際登録出願を活用されることをお勧めいたします。
(なお、本稿は、2015年2月16日時点の公開情報に基づいておりますので、最新の情報をご確認ください。
また、特許庁HPの情報も併せてご覧ください http://www.jpo.go.jp/seido/s_ishou/hague-geneva.htm )
※この記事は、2015年2月12日に中部経済新聞に掲載された内容を、2月16日特許庁発表の情報に基づいて編集したものです。