「神」と「塩」 -「取引実情」が考慮されて類否判断が覆った好例-

 

「神」と「塩」。どちらも縁起に関係ある言葉ですね。

近年は「神対応」といった言葉に代表されるように、人間も、わりと気軽な感じで、神様領域に到達できるようです。

そして、「神」の反意語は「悪魔」かと思いきや、「神対応」という「対応」の修飾語に限っては、「塩」(「塩対応」)が反意語なのですね。
「神」と「塩」が対義で同レベルなのは、神様的には不本意な感じじゃないでしょうか…。
(ちなみに、weblioでは「神」の反意語として「仏」も挙げられています。「仏対応」ですと、いっそう寛容な感じがしますが。)

という前提のもとで下記の言葉を見ると…

「神盛」

もうどうしても『カミモリ』としか読めない…。

まんまと洗脳されたことがわかります。

 
こんなふうに審判官が洗脳されたかもしれない(!?)商標の審判事件がありました。

もともとは、 『「神盛」は「シンセイ」という引用商標と類似する』  として、審査段階で拒絶査定を受けていたのに対し、不服を申し立てた拒絶査定不服審判事件です。「神盛」は「シンセイ」とも読めますからね。

不服2018-7421

審判の審決ではどのように判断されたかというと…


イ 称呼
本願商標を構成する「神盛」の文字は,辞書等に載録もなく,特定の読み方をもって親しまれた成語とはいえないが,構成中の各漢字については,「神」の文字が,音読みにおいては「シン,ジン」の称呼,訓読みにおいては「カミ,カン」等の称呼を,「盛」の文字が,音読みにおいては「セイ,ジョウ」の称呼,訓読みにおいては「も(る)・さか(る),もり」等の称呼を,それぞれ生じるものであるから(株式会社岩波書店 広辞苑第六版),これら2文字を組み合わせた「神盛」の文字からは,両者を音読みした「シンセイ」,「シンジョウ」,「ジンセイ」,「ジンジョウ」等の称呼と,同じく訓読みした「カミモリ」,「カンモリ」等の称呼が生じ得るものと考えられる。
ところで,本願指定商品「ぱちんこ器具,スロットマシン」の業界においては,遊戯の結果に応じて払い出されるメダルが「下皿」といわれる貯留部に溜まった状態や,メダルを貯留するための玉箱(ドル箱)に移したメダルの詰め方を示す語として,例えば「カチ盛り」「皿盛り」のように「~盛り(もり)」と表現されていること,また,特定の機種においては,出玉の量に応じて「凄盛」「大盛」「メガ盛」のように表現され,それぞれ「スゴモリ」「オオモリ」「メガモリ」と称呼されているなど,「盛(り)」を「モリ」と読むことが比較的多いというのが実情である(甲6)。
そして,「神」の文字は,近時「何かのレベルが神の領域であり,超素晴らしいこと。」(現代用語の基礎知識2017 自由国民社)を表す語として用いられ,例えば「神画像」「神対応」(甲18,20),他にも「神回」「神ゲー」等のように,「カミ~」と称されて,後続の語のすばらしさを修飾する語として造語を形成することが,しばしば見受けられるところである
そうすると,「神盛」の文字に接する本願指定商品に係る需要者は,当該文字中,後半の「盛」の漢字を「モリ」と訓読みで称呼するとみるのが自然であり,また,前半の「神」の漢字についても上記近時の傾向とあいまって同じく訓読みで「カミ」と称呼するとみるのがやはり自然であって,全体としては,複数生じ得る称呼の中でも「カミモリ」と称呼するとみるのが最も自然である。
ウ 観念
本願商標を構成する「神盛」の漢字は,成語ではないものの,「神」及び「盛」の各文字は,共に親しまれ,一般人にとって観念を容易に想起し得る漢字であり,また,2文字程度の漢字を組み合わせた単語について,これを構成する文字からその意味を理解することも通常のことである。
そして,「神」の文字は,「人間を超越した威力を持つ,かくれた存在。人知を以てはかることのできない能力を持ち,人類に禍福を降すと考えられる威霊。」(前掲書)等の意味を有する語として知られているが,上記イのとおり,近時では後続の語のすばらしさを最大限に修飾する語として使用されることもある
一方,「盛」の文字は,「物を容器に一杯に積み上げる。もる。もりもの。」(前掲書)を表し,程度を表す語に続いて,例えば「大盛」「小盛」「平盛」等のように,物が盛られた状態を表す語として使用されることもある。
そうすると,「神盛」の文字からは,「神」から生じる「人間を超越した威力を持つ,かくれた存在。」転じて「超素晴らしいこと。」等の意味合いと,「盛」から生じる「容器に一杯に積み上げる,もりもの。」等の意味合いを組み合わせて,「超素晴らしく積み上げたもの。」程度の意味合いを想起させるものといえる。
エ 小括
以上のことからすれば,本願商標からは基本的に「カミモリ」の称呼が生じ,「超素晴らしく積み上げたもの。」程の観念が生じ得るものである。

以上のとおり、審決によると、「神盛」=「超素晴らしく積み上げたもの」だそうです(若干(笑))。

ちなみに、上記の判断となったのは、商標の類否判断では 『指定商品又は指定役務における一般的・恒常的な取引の実情を考慮する』 とされているからです(参考:商標審査基準)。
審判官が洗脳されたわけではありません(いや、出願人に洗脳されたともいえるか!?笑)。

このように、審査段階で拒絶査定を受けた案件でも、審判の審理で「取引実情」を丁寧に主張して反論すれば、類否判断が覆ることがある好例だと思います。

 

ちなみに、「神盛」の反意語は何なのか?

「塩盛」?

なんだか縁起が悪そうです…。

 

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