禁反言法理採用 -商標の場合

11月22日(金)は秋の「だが屋」の日!詳細はこちら

<平成25年(ワ)第127号 商標権侵害差止等請求事件>(判決文はこちら

昨日は弁理士試験合格発表の日でしたね。合格された皆さん、おめでとうございました!これからは思う存分実務に時間をかけられますね、頑張ってください!
え、勤務先が決まってないんですか?じゃあ、弊所にご応募していただければいいんじゃないですか?名古屋ですけどね…
電気電子・情報・バイオ・化学等の技術に詳しい方、外国特許実務に詳しい方、アミューズメント関係の戦略的権利化業務をやってみたい方など。

応募といえば、1名の採用枠に150名のエントリーがあった国内事務の採用活動も大詰めを迎えまして、ようやく落ち着こうとしておるところです。事務採用では第四次試験までございまして「第一次:ネットでのエントリー、第二次:書類選考、第三次:筆記試験、第四次:面接」の4段階を踏みました。まだ最終決定前なので、詳細は控えますがもう少ししたらこのブログで面接のことを書きたいと思っています。これから就活される方へのアドバイスになると幸いです。

さて、今日は、弊所のキラキラ所員たちがJPO見学ツアーに出掛けておりまして、事務所に残っているのは、JPOには何度も行ったことがあるというヨレヨレの年寄りばかりです(含む自分。あ、年寄りでない所員も残っているのでそれは失礼か(汗))。事務所に電話が掛かってきたら自分も取らないとかんですね、ウグイス嬢のような声でカモフラージュして。(ダミ声の男性所員が出ても許してね!)

で、今日は、タイトルからもお察しのとおり、久しぶりに真面目に商標のハナシをしようと思っとるわけです。
10月は口述試験委員のお仕事やら採用活動やらでてんてこ舞いで判例を追うだけでいっぱいいっぱいたったのでブログに書く余裕がなかったのです、と言い訳しとる間に「最新」判例でなくなるという現実。
この状態ってよく思うんですが、山の世界でいうと、「忙しくてトレーニングができなかったから、遭難しちゃいました」という言い訳(?)と同じで、その言い訳が自分にとって何の役に立つのか全くもってよくわからんという。と、自己ツッコミ。

…相変わらずアホなことを長々と述べてすみません、そんなことはどーでもよくて、肝心の判例紹介を始めさせていただきます。今日の判例は、だいぶ前に出ました「RAGGAZZA」の商標権侵害・不競法違反事件で、大阪地裁の判決です。

イタリア語で「Ragazza」とは「少女、若い女性」を意味するそうですが、この事件の本件商標は「RAGGAZZA」です(「G」が二つ)

まずは経緯から。

■経緯

H20.03 原告さん「RAGAZZA」商標を出願
H20.10  「RAGGAZZA」商標が登録(本件商標)
H24.05  被告さん「Ragazza」を付した商品を販売開始
H24.05  原告さん「Ragazza」商標を出願
H24.07  被告さん、本件商標「RAGGAZZA」の登録につき不使用取消審判請求
H24.07  被告さん、本件商用「RAGGAZZA」の登録につき無効審判請求(3条1項6号、4条1項16号、4条1項7号)
H25.03  原告さんの「Ragazza」商標出願につき拒絶査定(3条1項3号、4条1項16号)
H25.03  被告さん、無効審判請求が認められなかった審決につき取消訴訟提起
H25.03  本件商標「RAGGAZZA」の登録を取り消す旨の審決
なお、いつからかは主張立証がなかったものの、原告さんは「Ragazza di VentiAnni」「RAGAZZA」を付した商品を販売されていたようです。

■「Ragazza」商標出願に対する拒絶査定での判断

拒絶査定の理由の要旨は以下のとおりでした(判決文17頁)。
指定商品を取り扱う業界においては,男性用をMen’s((メンズ),女性用をLadies((レディース),子供用をKid’s((キッズ)等のように,用途を表示するものとして外国語が普通に使用されている。
 上記商標は「少女,若い女性」を意味するイタリア語であるところ,指定商品を取り扱う業界では,イタリアはファッション流行の発信地として親しまれ,イタリア語のブランド名も多数存在し,イタリア語は商品の特性や属性を表示するものとして普通に使用されている。
 したがって,上記商標に接した取引者・需要者は,「女性用の商品」程度の意味合いを容易に認識・理解するにとどまるから,上記商標は単に商品の品質を表示するにすぎないから商標法3条1項3号に該当し,指定商品以外に使用するときは商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるから同法4条1項16号に該当する。

■今回の訴訟での争点

争点はたくさんあったのですが(判決文4頁参照)、このブログで取り上げるのは下記の2点だけといたします。

(1)本件商標権侵害に基づく請求に関する争点
 ア 被告標章は本件登録商標に類似するか (争点1-1)
 オ 本件商標権に基づく請求は権利の濫用に当たるか (争点1-5)

■裁判所の判断

商標権侵害の方の結論を先にいうと、裁判所は、『被告標章が本件登録商標に類似するとしても(争点1-1に対する判断),本件請求は権利の濫用に当たる(争点1-5に対する判断)。』等の理由で、本件商標権侵害に基づく請求には理由がないとしました。

以下、その理由です。

○ア 被告標章は本件登録商標に類似するか (争点1-1)

被告標章は大文字の「R」に続いて小文字の「agazza」からなるのに対し,本件登録商標はすべて大文字である上,「G」が2つであるという違いはあるものの,両標章を構成するアルファベットのうち「g」又は「GG」以外は共通である。
 したがって,被告標章と本件登録商標は外観において類似するものというべきである。
 また,称呼については,同一又は類似の称呼が生じうるものと認められる。
 観念については,イタリア語を解する者においては,類似の観念が生じうる。他方で,イタリア語を解しない者(本件登録商標の指定商品に係る国内の需要者において,イタリア語である「ragazza」の意味を理解する者が多いとはいえない。)にとっては,被告標章も本件登録商標も特定の観念を生じることがない。
 
このように,被告標章は,本件登録商標と外観において類似し,称呼において同一又は類似の称呼が生じうるものである上,商品の出所を誤認混同するおそれが認められない場合に当たるような取引の実情があるともいえない。

 したがって,被告標章は本件登録商標に類似するものと認められる。』(判決文16頁)

かように、裁判所は、類似判断をしております。

○オ 本件商標権に基づく請求は権利の濫用に当たるか (争点1-5)

…原告は, 原告標章(Ragazza di VentiAnni」や「RAGAZZA」)を自己の商品に付して使用していたにもかかわらず,当初は,「Ragazza」や「RAGAZZA」の標章について登録出願することをせず,これに「G」を1文字加えた,造語である「RAGGAZZA」(本件登録商標)について登録出願をしたこと,これが登録された後も,原告標章の使用を継続していることが認められる。原告が「Ragazza」の登録出願をしたのは,本件登録商標の登録出願から4年以上も経過した後,被告商品の販売が開始された時期である。
 このような原告の対応は,前
記1ウの拒絶理由を考慮したためであるこ
とがうかがわれる。

 そうすると,本件商標権に基づく請求は,原告があえて登録出願を避けた「RAGAZZA」又は「Ragazza」(被告標章)の使用について本件商標権の権利行使をしようとしているものというほかない。
 また,原告は,本件登録商標がイタリア語の「RAGAZZA」に由来する造語であり,これを想起させることを前提として,被告標章(Ragazza)が本件登録商標と類似する旨の主張をしている。他方で,原告は,本件登録商標の無効審判請求において,本件登録商標の無効を回避するために,本件登録商標が「Ragazza」(被告標章)と類似しない旨主張し,その旨の審判を得て本件商標登録の無効を回避しており,本件でも同旨の主張をしている。このような原告の対応(主張)は,禁反言の原則に照らし,許されないものというべきである。
  ところで, 原告は, これまで5 回にわたり, ファッション雑誌で「RAGGAZZA」と表記した広告を掲載し,本件登録商標を使用した旨主張している。その使用の態様は後記42のとおりであるが,仮に当該広告の掲載について本件登録商標の使用に当たりうるとしても,その使用は僅かなものであるし,前記のとおり,本件登録商標については不使用を理由とする登録取消の審決がすでに確定しており,商標権が消滅したとみなされる日までの間に被告標章が使用された期間はわずか3か月にとどまる。
  以上の事情を併せ考慮すれば,本件商標権に基づく請求は権利の濫用に当たり,許されないものというべきである。』(判決文18-19頁、下線は私が付しました)

かように、裁判所は、本件商標の権利行使は権利濫用に当ると判断しております。

○その他、原告標章の周知性も認められず不正競争に基づく請求も理由がないとされ、原告さんの請求はいずれも棄却されました。

■コメント

権利濫用のところで裁判所は禁反言の原則に言及しております。ご存知のとおり、禁反言法理というのは、「なに言っとんのアンタ、前と言っとることが全然違うがね、そんなん認められんわさー」(超訳:過去の出願手続等において主張したことと矛盾する主張をすることは、信義上認められません)というものです。

よい機会なので、商標事件で禁反言の原則が採用された事例を拾ってみました。

○侵害事件で採用された事例

・「KII事件」(H5(ワ)6949)
 商標権者さんは、過去の出願経過において、“「KII」はモノグラムであって二つの文字要素をくっつけたわけではない”と主張して権利を得ました。ところが、侵害訴訟の中では、“外観上「K」と「II」との接合体と看取できると主張して、被告標章がこれに類似する旨主張しました。これが、信義誠実の原則に反し認められないとされました。
   
・「BeaR事件」(H12(ネ)6252)
 商標権者さんは、過去の出願経過において、“ 「BeaR」は「最後のRが大文字のベアー」という特異なものとして看取・観念されるので識別力を発揮する”と主張し、引用商標「Bear」等と非類似として権利を得ました。ところが、侵害訴訟の中では、“被告標章「Bear」は本件商標「BeaR」と類似する”旨主張しました。これが、信義則上認められないとされました。

・「RAGGAZZA事件」(H25(ワ)127、今回の事件)
 
○拒絶審決の取消訴訟事件で採用された事例

・「I-Lux事件」(H21(行ケ)10102)
 出願人さんは、審査段階の意見書において、“本願商標は「I-Lux」の文字を図案化したもので、「アイラックス」と称呼される”と記載していました。ところが、審決取消訴訟では、“本願商標の「I」はアルファベットの「I」と認識することはできず、「-」もハイフンと認識することはできないので、「アイラックス」の称呼は生じない”とし、引用商標「Eye Lux」との相違を主張しました。これが、信義則上許されないとされました。

○不使用取消審判の審決の取消訴訟で採用された事例

・「ECOPAC事件」(H22(行ケ)10083)
 商標権者さんは、過去の出願経過・登録異議の審理において、“「ECOPAC」は、「環境保護に十分配慮した包装容器」の意味合いを指称するものではなく、造語である”と主張していました。ところが、審決取消訴訟では、“本件商標からは「環境に優しい包装」の観念が生じる”旨主張しました。これが、禁反言則に反し許されないとされました。

ところで。
禁反言則に反するとわかっていても、例えば代理人さんが途中で変わったり、途中から代理人さんを付けたり、その他諸々の事情で、そうなっちゃう(そうならざるを得ない)ということもあるでしょうね… 将来まで見据えた上で一貫した主張ができるよう手続を進めることが理想ではありますが。

次回も見ていただけるならぽちっと押してくださいな(。-_-。)/
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